実は私、覆面調査員の資格を持っているんです。
皆さんは「覆面調査」って聞いたことありますか?
覆面調査は企業から依頼を受けて、お客さんの振りをして店内に出向き、決められた基準で決められた行動をとって、その時の店員さんの言動や対応を、あとで報告書にまとめ、提出する仕事なんです。
何か人の悪い所を見つけて言いつけてるみたいで、何となく気が引けたこともありましたが、それがその店員さんの改善すべき点で、そこが変われば数倍よくなることもあるのでマイナス面ばかりを強調しないで「更に良くなるためにはどうしたらよいか」という点においても調査します。
依頼される会社の担当者の方は、会社のどこを見て欲しいのか、誰のどんな態度をチェックしてもらいたいのか事前にリクエストされますが、あまり先入観を持つと見方が偏ってしまいますので担当者の感想にはあまり耳を傾けないようにしています。
「こいつ、どうしようもない奴なんです!」「一人になったらすぐ目を盗んでサボるんです」「お客様に敬語が使えなくてまるで友達のように話すんです」などなど。
逆に、事前に聞いていた店員さんの様子とは全く違って、感心するほど熱心で親切なお客様思いの店員さんもいます。
そういうギャップを見ると評価している上司の目を疑いたくなるようなこともあります。
「偏った評価」をされることによって、その店員さんは辛い思いをしているんだろうなぁと可哀想になってしまいます。
ある日スーパーのレジで店員さんの挨拶の仕方や声の大きさ、お金の数え方やお釣りの渡し方をチェックして欲しいと依頼が来ました。
事前の上司によるコメントでは、仕事が遅く、気分屋で、お客様に合わせた対応が出来ない、無駄口が多いなど、けちょんけちょんに言われていた店員さんをチェックする機会がありました。
接客の様子を見ていると確かにず~っと喋ってます。
「木村さん今日は早いわね。仕事早く終わったの?」
「違うのよ。今日は長男の高校入試の合格発表の日なの!」
「で、どうだったの?この買い物の内容を見ると合格したんでしょ!」
とこんな感じ・・・
何人か笑顔でそつなく接客し、次のお客様は高齢のお爺さんです。
(お爺さんが何か顔を赤らめ何度も頭をさげてお礼を言っているようです)
(ぴたっと動きを止めた店員さんは涙ぐんでお爺さんの手を握って言いました)
「一生懸命に寄り添ってお世話されていたから奥さんもきっと喜んでいらっしゃったと思います」
「私も奥さんには何度も叱られたり励まされたりでお付き合いが長かっただけに本当に残念です」
あとで、上司の方に聞いて分かったのですが、奥様は徐々に体の筋肉が硬直していく筋ジストロフィー症という病気で寝たきりになられたそうで、その奥様をご主人であるお爺さんがずっと一人で介助されていたそうです。
お爺さんは、奥様がまだ自分で買い物が出来ていた頃に、その店員さんに重い荷物を持ってもらったことや、商品を袋に入れてもらったことを奥様から聞いていたので、大変お世話になったお礼を言いに店頭に来られたそうです。
調査していて気付いたことですが、その店員さんは確かに仕事が遅く、仕事とは関係のない話ばかりしているように見えます。
でも、どの店員さんよりも何故かレジの列が長いのです。
みんな混んでるのにわざわざその店員さんのところを選んで並んでいるような感じさえします。
そしてみんな自分の番になったら嬉しそうにニコニコして話をしています。
私は、報告書には「その店員さんは会社の財産です」と書きました。
評価は一方的な場合が多く、見方によっては悪い側面だけが取り上げられることがあります。
それをちゃんと見抜くのが私たち覆面調査員の仕事だと思っています。
私は、覆面調査員の仕事を人材育成の仕事の一環でやっています。
一生懸命頑張っている人をちゃんと支援できるトレーナーになるために、良い面を見逃さないように、これからもしっかりと調査したいと思っています。
では、また!
漢仁